いたし、内匠頭の勘定高い性質も十分知っていたので、
「それで、結構でしょう」と、いうほかはなかったが、伊東出雲とて、少しも裕福でないのに、その伊東が千二百両かけたとしたら、御当家が七百両では少しどうかしらと、二人とも思っていた。
「第一、近頃の世の中はあまり贅沢になりすぎている。今度の役にしても、肝煎りの吉良に例の付届をせずばなるまいが、これも年々額が殖えていくらしい」
「いいえ、その付届は、馬代金一枚ずつと決っております」
「それだけでも、要らんことじゃないか。吉良は肝煎りするのが役目で、それで知行を貰っているのだ。わしらは、勅使馳走が役の者ではない。役でない役を仰せつかって、七、八百両みすみす損をする。こっちへ、吉良から付届でも貰いたいくらいだ」
 二人の家老は頷くよりほかはなかった。

          二

 用人部屋へ戻って来た二人は、
「困ったなあ!」といって、腕組みをした。
「吉良上野という老人は、家柄自慢の臍曲りだからな」
「家柄ばかり高家で、ぴいぴい火の車だからなあ」
「殿様は、賄賂《わいろ》に等しい付届だと、一口におっしゃるが、町奉行所へだって献残(将軍へ献上した残り物と称して、大名が江戸にいる間、奉行の世話になった謝礼として、物品金子を持参することをいう)を持ち込むのだからな。大判の一枚や小判の十枚ぐらいけちけちして、吉良から意地の悪いことをされない方がいいがな。もしちょっとした儀式のことでも、失敗があると大変だがな」
「しかし、前に一度お勤めになったから、その方は大丈夫だろうが、七百両で仕切れとおっしゃるのは、少し無理だて」
「無理だ」
「勅使の御滞在が、十日だろう」
「そうだ」
「一日百両として、千両。前の時には日に四十両で済んでいるが、天和のときの慶長小判と今の鋳替《ふきかえ》小判とでは、金の値打が違っているし、それに諸式が上っているし……」
「御馳走の方も、だんだん贅沢になってきているし……」
「そうさ。出雲だって千二百両使っているのに、浅野が七百両じゃ……ざっと半分近いのでは、勅使に失礼に当るからなあ」
「困った」
「困ったな。急飛脚でも立てて、国元の大野か大石かに殿を説いてもらう法もあるが、大野は吝《けち》ん坊で、七百両説に大賛成であろうし、大石は仇名の通り昼行灯で、算盤珠のことで殿に進言するという柄ではないし……」
「困ったな。
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