、こなな目にあわしておきながら、何ぬかしゃがるんだ。
甚吉 おっ母のいう通りじゃ。わしたちを、こななひどい目にあわしておきながら、ようも見に来られたのう。
おきん 覚えとれ! わしはな、首は飛んでも、七生まで村中へ崇ってやるからなあ!
村人一 何いうだ。みんなわれたちが、人のええ甚兵衛を苛めぬいた罰ではないか。
村人たち そうじゃ! そうじゃ!
おきん 何!(くくられていながら、村人たちに飛びかかろうとする)
縄取りの役人 (縄を引きながら)神妙にいたせ!
おきん (恨めしそうに村人たちに)覚えとれ、よう覚えとれ! 死んだって、恨み晴らしてやるからな。
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(おきん母子、刑場の中へ歩み入る。舞台半回り、刑場の内部が見える。磔柱《はりつけばしら》が矢来に立てかけられている。五人の囚人、甚兵衛を先に一列に引き据えられている。刑吏たちが後から入って来る。刑吏の長、床几に腰を掛ける)
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刑吏の長 用意整うておるか。
刑吏一 万事整うておりまする。
刑吏の長 それでは、罪状を読み上
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