た》ってはね返った。この時内側で何か墜落するような音が聞えたが、それと共に鶴嘴を当てた大石が落ち込んで大きな穴があいた。
ボートルレは覗いてみた。一陣の冷めたい風が彼の顔に当った。下男が持ってきた梯子を掛けて、判事は蝋燭を持って降りていった。伯爵もそれにつづいた。ボートルレも最後に降りていった。穴倉の中は暗黒《まっくら》であった。蝋燭の火がちらちらと動いてわずかに探り見られた。しかし底に降りると恐ろしい胸のむかつくような臭気が鼻をついた。と、突然ボートルレの肩を押えた手があったが、それはぶるぶる慄《ふる》えていた。
「どうしたのです。」
「ボートルレ君、い、居た。何かある!」
「え!どこに?」
「あの大石の下に、あれ、見たまえ!」
彼は蝋燭をとり上げた。その光は地上に横たわっているある物の方へ投げられた。
「あ!」ボートルレは思わず恐ろしさに声を挙げた。三人は急いで覗いてみた。実に恐ろしい痩せた半ば裸の死体が横たわって[#「横たわって」は底本では「横はたって」]いた。溶け掛けた蝋のような青みがかった腐れた肉が[#「肉が」は底本では「肉か」]、ぼろぼろに破れた服の間からはみ出ている。
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