まで気づかずにいたもっと他の物が失くなって[#「失くなって」は底本では「失くなてつ」]います。」
「名画の他にですか?」
「さよう、もっと大切な物が、しかも名画と同じように替《かわ》りの品物をおいていきました。」
二人は礼拝堂の前を通っていた。ボートルレは立ち止まって、
「判事さん、あなたはそれを知りたいんですか。」
「もちろん知りたいです。」
ボートルレは太い杖を持っていたが、突然その杖を振り上げて、礼拝堂の扉を飾っている数個の彫像の一つを発止《はっし》と打った。
「ど、どうした、君は気でも違ったか?」判事は思わず、飛び散った彫像のかけらの方に駆け寄りながら叫んだ。「これは実に立派な物……」
「立派な物!」ボートルレはまたつづいてその次のマリヤの彫像を打ち壊しながら叫んだ。判事はボートルレに組みついて、
「君、馬鹿なことをしてはいけない!」
その次の老王《ろうおう》の像も、基督《キリスト》の像も飛び散る。
神秘の土窟《どくつ》
「その上動いたら撃つぞ。」ジェーブル伯もそこへ駆けてきてピストルを差し向けた。ボートルレは声高く笑った。
「伯爵、偽物です!
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