壊れた門や、壊れた廻り廊下や、破れた窓などが悲惨な姿をまざまざと露《あら》わしていた。夜のかすかな風が向うの森の方から静かに吹いてきた。
と、またも怪しい物音……それは下の二階の左手にある客間から響くらしい。
レイモンドは勇気のある少女であったが、何となく恐ろしくなってきた。彼女は寝衣《ねまき》の上に上着をまとった。
「レイモンドさん!レイモンドさん!」
境の戸の閉めてない隣りの室から、細くかすかな声が聞えたので、レイモンドはその方へ探り探り行こうとすると、従妹のシュザンヌが室から出てきて腕に取り縋《すが》った。
「レイモンドさん……あなたなの?あなたも聞いて!」
「ええ……あなたも目を覚ましたのね!」
「私、きっと犬の声で起きたのよ……もうしばらくしてよ。けれどももう犬は鳴かないわね……今何時でしょう?」
「四時頃だわ。」
「あら! お聞きなさい。誰か客間を歩いているようよ。」
「でも大丈夫よ、お父様が階下《した》にいるんですもの、シュザンヌさん。」
「でもかえってお父様が心配だわ。」
「ドバルさんが一緒にいらしってよ。」
「でもドバルさんはあっちの端《はじ》よ、どうして聞える
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