シムの家の戸をたたきました。すると、モルジアナという女どれい[#「どれい」に傍点]が出て来ました。この女はカシムの召使《めしつかい》の中でも、一番りこう者でありました。
アリ・ババはモルジアナを招《まね》いて、その耳に口をつけて、
「お前のご主人はね、どろぼうに切りきざまれて殺されてしまったのだよ。けれども、だれもまだこのことを知っている人はないのだからね、お前これを、だれにも知らさないですますような工夫《くふう》をしておくれ。」
と、たのみました。
それから、アリ・ババは家の中へ入って行って、カシムのおかみさんに、いっさいの話をして聞かせました。
「けっして、悲しんではいけませんよ。これからは私たちと一しょにくらしましょう。私たちの宝物も分けてあげましょう。私たちはよく気をつけて、このことを、人にさとられないようにしましょうね。」
と、約束しました。
それから、切りきざまれた、かわいそうなカシムを、ろばからおろして、となり近所の人々には、ゆうべ急病で死んだと言っておきました。
モルジアナは、だいぶはなれた町の、おじいさんのくつ[#「くつ」に傍点]屋をたずねて行きました。そして、針《はり》と糸とを持って自分と一しょに来てください、とたのみました。それから、
「お前さんにたのみたい仕事というのは、どうしても人に知られてはならないことだからね、気の毒《どく》だけれど、お前さんに目かくしをして、その家まで私が手を引いて行くのですよ。」と、言いました。
おじいさんのくつ屋は、はじめはいやだと言いましたけれども、モルジアナが金貨を一枚そっとその手ににぎらせましたら、すぐしょうちしました。モルジアナは、このくつ屋をつれて帰って来て、切りきざまれた主人の肉を、ぬいあわせるように言いつけました。くつ屋は、だれだって、ぬいあわせたとは思えないほど、かっこうよくつぎあわせました。それからモルジアナはまた、くつ屋に目かくしをして、その店までつれて行きました。
こんなふうにして、カシムが殺されたことは、だれにも知れないですみそうでした。そして、アリ・ババとそのおかみさんとは、カシムの家に引っこして行って、みんなで一しょにくらすことになりました。
けれども、その後どろぼうたちは、あのほら穴へ帰って、カシムのからだと、金貨の袋がまた二つもなくなっているのに、気がつきました。そし
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