やがてまもなく、どろぼうたちは出て来ました。さっきのかしらが、また、
「閉まれ、ごま。」
と、さけびました。戸はすうーっと閉まってしまいました。そして岩も、もとの岩になってしまいました。どろぼうたちはどこかへ去ってしまいました。
 アリ・ババは木からおりました。そして、さっきどろぼうのかしらが言った、ふしぎな言葉《ことば》をおぼえていたものですから、岩の上へのぼって、
「開け、ごま。」と、どなってみました。
 そうすると、やっぱり岩がわれて、さっきの戸が開きました。アリ・ババは中へ入って行きました。その中は大きなほら穴でした。りっぱな宝物《たからもの》や、金貨《きんか》や銀貨をつめこんだ大きな袋《ふくろ》が、すみからすみまで、ぎっしりとつみ重ねてありました。これだけのものをあつめるには、まあ何年かかったことだろうと、アリ・ババは思いました。そしておそるおそる、金貨をつめこんだ袋ばかりを六つ取り出しました。そして手早く三びきのろばにつんで、その上に金貨の袋がかくれるほど、切った木をつみ重ねました。それから、
「閉まれ、ごま。」と、大きく言いました。そうすると戸はやっぱり閉まって、岩にはあとかたもなくなりました。
 アリ・ババは家へ帰って来ました。おかみさんは金貨の袋を見て、大へん悲《かな》しそうな、またこわいような顔をして、アリ・ババに泣きつきました。
「まあ、お前さん、もしかしたらこれは?……」とまで言って、それからさきはもう声が出ない様子でした。
 するとアリ・ババは落ちつきはらって、
「安心おしよ。なんで私がどろぼうなんかするものかね。そりゃ、この袋は、もともとだれかがぬすんだものには、ちがいないがね。」
と、言いました。それから、金貨の袋を見つけたいちぶしじゅうを話して聞かせました。
 それを聞いて、貧乏なこのおかみさんは大へんよろこびました。そして、アリ・ババが袋からつかみ出す金貨を、「一|枚《まい》、二枚」とかぞえはじめました。
 そのうちアリ・ババが、ふと気がついたように顔を上げて、
「そんなかぞえ方をするのはばかだね。そんなことをしていたら、みんなかぞえてしまうには何週間かかるかわかりゃあしないよ。いっそこれは、このまんま、庭へ穴を掘《ほ》ってうずめようじゃないか。」と、言いました。
 するとおかみさんは、
「でも、私たちがどれほどのお金持になったの
前へ 次へ
全11ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング