ぶやきました。ペルシャには、こういう迷信《めいしん》があるのです。
モルジアナは、すぐに自分のへやへもどって来て、おどり子の着る着物を着ました。そして、晩ごはんが終った頃を見はからって、短刀を片手ににぎって、お客さまのざしきへおどりをおどりに出ました。
モルジアナは大そうじょうずにおどって、みんなにかっさいされました。にせの商人は、さいふから金貨を一枚出して、モルジアナのタンボリン(手つづみ)の中へ入れました。その時モルジアナは、片手に持っていた短刀を、やにわに商人の胸《むね》につきさしました。
「ふとどき者め、お客さまをどうしようというのだ。」
アリ・ババがしかりつけました。するとモルジアナは落ちついて、
「いいえ、私はあなたの命をお助けしたのでございます。これをごらんくださいまし。」
と言って、商人がそでの中にかくしていた短刀を取り出して見せました。そして、この商人が、ほんとうは何者であったかということを申しのべました。
それを聞くと、アリ・ババは、ありがた涙《なみだ》にくれて、モルジアナをだきしめました。
「お前はわしの息子のおよめさんになっておくれ、そしてわしの娘になっておくれ、それがわしにできる一番の恩返しだ。」と、言いました。
さて、それからずいぶん後までも、アリ・ババは、こわがって、あのふしぎなほら穴へ行ってみようとはしませんでした。しかし、ある年の末、もう一度行ってみました。ところが、どろぼうたちが死んでからは、だれも来ないらしく、中は昔のままでありました。それでもう、こわい者が一人もいなくなったことがわかりました。
それから後は、「開け、ごま。」と、アリ・ババが、まほう[#「まほう」に傍点]の言葉を唱《とな》えさえすれば、あのふしぎな戸がすうーっと開いて、穴の中には、持ち出しても、持ち出してもつきることのないほどの、宝がありました。それで、アリ・ババは、国じゅうでならぶ者もないほどの、大金持になってしまいました。
底本:「アラビヤンナイト」主婦之友社
1948(昭和23)年7月10日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:京都大学点訳サークル
2004年11月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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