う悪評のある某実業家が快く会ってくれたために、その当座はばかにその人が好きになったことがありましたよ。とにかく、杉浦のような小僧あがりの写真師が、M侯爵と知己になるなんて、全く侯爵が平民的ないい人だからです。またこの杉浦というやつが、図々しくって押しが太くて、鼻柱が強くて、大臣宰相でも、公爵でも、何の遠慮もあらばこそ、ぐんぐんぶつかって行く男なのです。
 一体、杉浦だけではありません。およそ世の中で図々しい押しの強い人種といえば、おそらく新聞社の写真班でしょう。世間では新聞記者を、図々しい人間の集まりだと思っているようですが、この頃の記者は、皆相応に学問もあって、自分自身の品格というものを考えていますから、相手にいやがられるほど図々しく出るなどということはまずないと思います。そこへ行くと写真班の連中です。見栄も外聞もあったものではありません。何でもかでも「撮ったが勝」です。いつか、日本で客死したルーマニア公使の葬式が、駿河台のニコライ堂で行われた時でした。まだ若い美しい未亡人が、祈祷の最中に泣き崩れているところを何の会釈もあらばこそ、マグネシウムをボンボンと焚きながら、各社の連中が折り
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