つ三つ)
諏訪 いいえ、それじゃ、妾の気持が済まないの、だから、あなたにどう、未納にどうってことはないの。あなた寒気がするんじゃない?
昌允 いや、母さんの気持なんか、済まなくったって大した問題じゃありませんよ。当人達の気が済めば、それでいいことでしょう。
諏訪 そうは、行かなくってよ。妾は、妾達の家庭を規律のないものにしたくありません。
昌允 規律って言うのは、何です。僕は別に須貝君と美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の結婚は、規律を無くするものだとは思っていませんよ。
諏訪 昌さん、あなたの気持もわかります。だけど、母さんの気持だって、わかるでしょう。お願いだから駄々っ子、言うのは止して頂戴。
昌允 莫迦な下らん話です。
諏訪 下らん話でもいいの、母さんいいようにします。
昌允 そうは行きませんよ。母さんひとりのいいようにはならない。
諏訪 だけど、あなたの思うとおりにも、なり兼ねますのよ。
昌允 僕ひとりの、思うようにしようとは言いません。自然な処置をなさいと言うのです。
諏訪 なんです。癇癪《かんしゃく》を起したりして、このことは母さんにまかせて下さい。ね。
昌允 実際癇癪を起しますよ、どうして、あなたは、そんな持ってまわったことをするんです。実につまらん。
諏訪 いいえ、持って回ったことじゃありません。妾は、須貝さんを、信用しないのです。これは一つに美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の為なんですもの。
昌允 あはあ。分った、母さんには……須貝さんが、母さんに好意を示したくせに、そのすぐ後から美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]を貰いたいと言ったことがいけないのだ、そうですね。
諏訪 まあ! 昌さん!
昌允 しかし、そうするより、他に、どんな仕方があります。
諏訪 妾は、貰いたいと言ったことがいけないなど言ってやしない。
昌允 しかし、そうですよ、それは。
諏訪 昌さん、まあ、お聴きなさい、母さんは……。
昌允 いいですよ、母さん。それがいけないとは、誰だって言ってやしません。だけど、もう、すっかり済んじゃったわけです、実を言うと須貝さんは、追立てを喰う前に、自分で追ん出て行きました。あの人も莫迦じゃないですね。(去る)
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諏訪、一寸打たれる。今更らしく、戸口の所へ出て行って外を見る。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、未納。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] あら、暗いわね、誰もいないのかしら。
未納 母さん!
諏訪 (我に返って)うん。
未納 そこにいたの。
諏訪 (外を見たまま)此処よ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 御飯、出来てよ。
未納 (二階へ)お父さん、御飯!
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] どうしたの、母さん。
諏訪 いいえ、どうも……。暗くなったわね。(壁をさぐってスイッチを入れる)
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] すっかり暮れてしまったわ。
未納 涼しくなったわね。(窓の傍へ行く)お姉さん、宵の明星よ。緑色をしてるわ。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、近づいて行く。
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諏訪 あのね、須貝さんね。どっか、行って了ったんだって。
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二人、答えない。
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諏訪 母さん、いけなかったかしら。
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二人、答えない。
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諏訪 母さんは、出て行って貰うって言ったけれど、そのことはあの人には、まだ言ってないのよ。言わない先に自分で出て行ったのよ。でも、やっぱり、母さんの所為《せい》かしら。
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二人、答えない。
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諏訪 そうかもしれない、何故だかわからないけど、やっぱり、あなた達に、あやまらなければならない気がするわ、もしも、母さんが、いけないと思ったら、堪忍《かんにん》して頂戴。母さんは、いくらでもあやまってみたい気がするのよ。
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二人、答えない。
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諏訪 須貝さんは、妾達みんなに、黙って、行って了ったのよ。左様ならも言わないで、何処かへ行って了ったのよ。少し酷《ひど》いと思わない。だけど、その方がほんとによかったかもしれないわね。これからはみんな、以前のようにずっと仲よく暮してゆけるじゃないの、厭なごたごたなんかなくって……。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、啜り泣き始める。
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未納 お姉さん! お姉さん!
美※[
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