、親達の方が手っとり早く共鳴してしまったわけなんで、いきなり兄妹になっちゃった。
須貝 ふむ。
昌允 あなただったら……どうします。
須貝 困るでしょう。あなたは?
昌允 それを考えてるんです。
須貝 しかし……もう一つの方から考えてみると別に変でもないな。
昌允 早い遅いの問題ですからね。僕達の方が先だったら、今頃は逆に親爺達の方で困ってるわけだから。
須貝 (笑って)そっちの方が問題は少なかったかもしれないが。
昌允 しかし、もう駄目ですよ、その方は。
須貝 取返しがつきませんね。
昌允 だから言うんです。あなたがもし、二人の何方《どちら》かを選ばれるんだったら、未納にして下さい。
須貝 未納君をね。
昌允 厭ですか。
須貝 厭じゃないが。
昌允 未納の方でも、あなたが好きらしいですよ。
須貝 冗談いっちゃァ、いかん。
昌允 あなたもうっかりしていますね。尤も、そう言うものだが。
須貝 若《も》し……若し僕が美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さんを貰いたいと言ったらどうするんです。仮定ですよ。
昌允 そんなことは言わないでしょう。
須貝 驚いたなあ。
昌允 困るんですから。
須貝 一向、困ってるようにもみえない。
昌允 年下のものを虐《いじ》めるのはお止しなさい。意地の悪い……。
須貝 ところが、僕は僕で、あなたを意地悪だと思ってる。
昌允 そんな莫迦《ばか》な……。しかし、どうしてもと言われるなら、それはそれで構いませんよ。あなたの意志は、尊重します。
須貝 わからないな、僕は、あなたの罠《わな》にかかるのは厭ですよ。
昌允 罠? 何です。それは……。
須貝 と言うのは、つまり……。
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未納。
[#ここで字下げ終わり]
未納 (悪戯《いたずら》らしく覗《のぞ》き込んで)もう済んじゃったかな。
昌允 何だ。
未納 (這入って来る)なあんだ、お兄さんか。おやおや、マルチーニお父さんのお株奪っちゃっていいの? 嘆くわよ。(と近づく)
昌允 ウイスキーが入ってるぞ。
未納 ああ(泰然と手を差出す)
昌允 手を洗って来いよ。バイキンみたいな手をしてやがる。
未納 ん、綺麗よ。(注ぐ)
昌允 さんざ、土いじりをして来たんだろう。なんだ、その顔は(未納、顔を外らす)……顔迄泥の条《すじ》がついてら。
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未納、手の甲
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