をやりたいつもりです。
昌允 家の親爺《おやじ》もそうですね。
須貝 先生もそうです。そっくり真似るわけにはゆきませんがね。
昌允 天気の関係やなんかもあるわけでしょう。
須貝 それは、あるわけです。
昌允 僕は、こないだ、ちょっと親爺の写真のかかっている小屋を覗《のぞ》いてみたんだけど……駄目ですね。あれで、会社じゃどうなんでしょう。
須貝 先生ですか。どうってことは無いです。やっぱり大監督ですね。
昌允 惰性なんですね、それは。僕は見ていてすっかり退屈してしまったな、僕みたいなものがそうなんだから、見馴れた連中は如何《どう》なんだろうと思って、周辺《あたり》を見回したら、やっぱりみんな思い屈したような顔をしてましたよ。楽しんでるような顔はまるで無かったな。
須貝 どうも、そう言われると、こっちが大変つらいわけなんだが。これで活動屋も楽な商売じゃありませんからね。
昌允 結局、なんて言う……つまり……センスの問題なんじゃないですか。須貝さんなんか、若い監督さんはやっぱり違うでしょう、どこか。一本になられたんだし、期待しています。
須貝 さあ、そう期待されると、益々困るんです……(美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、グラス、シェーカーなどを台に載せて入って来る)まあ、意気込んでいるには、いるわけなんだが…それがねえ……
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 冷蔵庫にこれっぽっち、氷……。ビタースも心細くってよ。
昌允 ん。(立ち上って、飲みものを造りにかかる)今日は何処へ行って来たんだ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 妾? 母さんと衣装|査《しら》べに。
昌允 衣装査べって、此の間、済ませたんじゃないのか。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] でも、なんだか安心出来ないんだって。いざと言う時になって、足りなかったりすると困るからって……。
昌允 前ので懲《こ》りたらしいな。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 須貝さん御存じ、この前の公演の時にね、もうベルが鳴り始めてから、持ち道具が一つ足りないのに気がついて大騒ぎしたんですよ。
須貝 ちっとも気がつかなかった。そんなことがあったんですか。
昌允 そう一々、客席に知れちゃァ、仕様がない。
須貝 こんだのは、なんだか大変なんですってね。
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