る? 若しも、あんたがあたしだったら。
収 何うしてそんなことが訊きたいんだ。
あさ子 訊くだけだったらいいでしょう。
収 参考のために?
あさ子 はは。
収 笑いごとじゃない。大変なことだ。
あさ子 だから訊いてるのよ。
収 そんなこと訊いたって仕方がないよ。
あさ子 どうして。
収 だってそうじゃないか。結局あなたはあなたで、僕は僕さ。そこんとこはどうにもなりゃしない。あなたは此の頃そんなことを考えてるのか?
あさ子 子供じゃないもの、もう。
収 (感じ入って)ああ、成程。
あさ子 (わけがわからず)ほんとよ。(平気で)平凡ね、私の考。
収 大変いいと思うよ、それは。
あさ子 軽蔑するでしょう。
収 いけないな、そんなことを言うのは。軽蔑なんてしやしないよ。ところで僕は、何をうじうじしてるんだろう。莫迦な奴だ。
あさ子 え? 何て言ったの?
収 いいことだ。君の知らない……。
あさ子 変よ。
収 そうかな。
あさ子 変だわ。
収 (立上り)どら、帰ろう。
あさ子 もう帰るの。
収 話すことも無いらしいからね。
あさ子 いつもね、それは。来週月曜日は来るんでしょう、お稽古。
収 来られないだろうと思うんだ。
あさ子 再来週《さらいしゅう》は?
収 多分。
あさ子 じゃ、またそん時ね。
収 来られないだろう。その次も、それから後もずうっと。
あさ子 あら、どうして?
収 (焦《じ》れったく)どうしても糞もあるもんか。来られないと言ったら来られないんだ。
あさ子 (立上り、大きな声で)母さん母さん!
収 (驚いて)なんだ、そりゃ。
あさ子 母さんをよぶのよ。
収 よぶのさ、大きな声だからね、あなたの声は。よんでどうするのだ。
あさ子 よぶだけよ。
収 じゃ、よばなくたって、同じじゃないか。
あさ子 (笑って)なら帰るなんて言わないか。
収 ――。
あさ子 母さんは、あたしのしようと思うことは何でも、黙ってしてくれるから。
収 (参って)いいよ、いいよ。僕だって黙ってしてやるよ。強い女だな、君は。(坐る)
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女中。
[#ここで字下げ終わり]
女中 よし子様のお兄様がいらっしゃいましたけれど……
あさ子 あたしじゃないでしょう。母さんいるんでしょう。
女中 ええ、でも奥さまが、そう……。
あさ子 そう。
[#ここから3字下げ]
女中、去る。
[#ここ
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