とは、何事もかつてその通りに起ったのだと云うことは、他の子供達が皆楽しい聖降誕祭の休日をするとて家へ帰って行ったのに、ここでもまた彼ひとり残っていたと云うことだけは、彼にも分っていた。
彼は今や読書していなかった、落胆《がっかり》したように往ったり来たりしていた。スクルージは幽霊の方を見遣った。そして、悲しげに頭を振りながら、心配そうに戸口の方をじろりと見遣った。
その戸が開いた。そして、その少年よりもずっと年下の小娘が箭を射るように飛び込んで来た。そして、彼の首のまわりに両腕を捲き附けて、幾度も幾度も相手に接吻しながら、「兄さん、兄さん」と喚び掛けた。
「ねえ兄さん、私兄さんのお迎いに来たのよ」と、その小っぽけな手を叩いたり、身体を二つに折って笑ったりしながら、その子は云った。「一緒に自宅《うち》へ行くのよ、自宅へ! 自宅へ!」
「自宅へだって? ファンよ」と、少年は問い返した。
「そうよ!」と、その子ははしゃぎ切って云った。「帰りっ切りに自宅へ、永久に自宅へよ。阿父さんもこれまでよりはずっと善くして下さるので、本当にもう自宅は天国のようよ! この間の晩寝ようと思ったら、それはそ
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