な口調で訊いた。
「ゆっくりだ!」と、幽霊は相手の言葉を繰り返した。
「死んで七年」と、スクルージは考えるように云った。「その間始終歩き通しでしょう?」
「始終だとも」と、幽霊は云った。「休息もなければ、安心もない。絶え間なく後悔に苦しめられてるんだよ。」
「では、よほど速く歩いてるのですか」と、スクルージは訊いた。
「風の翼に乗ってよ」と、幽霊は答えた。
「それじゃ七年間には随分沢山の道程《みちのり》が歩かれたでしょう」と、スクルージは云った。
 幽霊は、それを聞いて、もう一度叫び声を挙げた。そして、区がそれを安眠妨害として告発しても差支えなかろうと思われるような、怖ろしい物音を真夜中に立てて、鏈をガチャガチャと鳴らした。
「おお! 縛られた、二重に足枷を嵌められた捕虜よ」と、幽霊は叫んだ、「不死の人々のこの世のためにせらるる不断の努力の幾時代も、この世の受け得る善のまだことごとく展開し切らないうちに、永劫の常闇の中に葬られざるを得ないと云うことを知らないとは。どんな境遇にあるにせよ、その小さな範囲内で、それぞれその性に合った働きをしている基督教徒の魂が、いずれも自分に与えられた人の
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