代りに、こんなお天気で一と撫でして、悪魔の鼻をちょいと痺れさせてやったら、その時こそ実際悪魔は大声挙げて咆吼したことでもあろう。骨が犬に咬まれるように、飢えた寒さに咬みつかれ、もぐもぐ噛じられた、一つの尖った若い鼻の持ち主がスクルージの鍵の穴から覗き込んで、聖降誕祭の頌歌を彼に振舞おうとした。が、
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神は貴方がたを祝福したまわん、愉快そうな紳士方よ、
貴方がたを狼狽せしむる者は一としてなからん!
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と初めの文句を歌い出した刹那に、スクルージは非常に猛烈な勢いで簿記棒を引掴んだ。それがために歌唄いは仰天して、その鍵の穴を霧と、それよりももっと主人と性の合った霜とに任せて置いたまま遁げ出した。
とうとう事務所の閉じる時刻がやって来た。厭々ながらスクルージはその腰掛から降りて、大桶の中に待ち構えていた書記に、黙ってその事実の承認を与えた。書記は早速蝋燭を消して帽子を被った。
「明日は丸一日欲しいんだろうね?」とスクルージは云った。
「ご都合が宜しければ、貴方。」
「都合は宜しくないさ」と、スクルージは云った。「また公平な事でもないさ。で、そのた
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