、二人の他の男を導き入れた。彼等は見るから気持の好い、恰服《かっぷく》のいい紳士であった。そして、今や帽子を脱いで、スクルージの事務室に立っていた。彼等は手に帳簿と紙とを持って、彼にお辞儀をした。
「こちらはスクルージとマアレイ商会で御座いますね?」と、その中の一人が手に持った表に照し合わせながら訊ねた。「失礼ながら貴方はスクルージさんでいらっしゃいますか、それともマアレイさんでいらっしゃいますか。」
「マアレイ君は死んでから七年になりますよ」と、スクルージは答えた。「七年前のちょうど今夜亡くなったのです。」
「もちろんマアレイさんの鷹揚なところは、生き残られたお仲間に依って代表されているので御座いましょうな」と、紳士は委任状を差出しながら云った。
 確かにその通りであった。と云うのは、彼等二人は類似の精神であったからである。鷹揚なところという気味の悪い言葉を聞いて、スクルージは顔を顰めた。そして、頭を振って、委任状を返した。
「一年中のこのお祝い季節に当たりまして、スクルージさん」と、紳士はペンを取り上げながら云った。「目下非常に苦しんでいる貧窮者どものために、多少なりとも衣食の資を
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