中の妖婆は何の怪物であるか判らなかった。それが伝説の鬼婆であるとしても、なぜ或る時にかぎってその姿をあらわしたのか、そんな子細はもとより判ろう筈はなかった。かの妖婆をみたという四人の若侍のうちで、堀口は石川に殺され、石川は自殺した。なんにも係合いなしに通り過ぎた神南は、無事であった。かれに銭をあたえて通ったという森積は、その翌年の正月に抜擢されて破格の立身をした。
その後、この横町で、ふたたび鬼婆のすがたを認めたという者はなかった。
底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「文藝倶樂部」
1928(昭和3)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「啄《くち》」と「喙《くち》」、「古老」と「故老」の混在は底本の通りとしました。
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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