高麗へ使する海中で、紅裳を着けた婦人を見たと伝えている。我国でも西鶴の『武道伝来記』に松前の武士が人魚を射たという話を載せているが、他には人魚の話を書いたのは少く、人魚という名が遍《あまね》く知られている割合に、その怪談は伝わっていないらしい。
 支那にも、我国にも怪鳥という言葉はあるが、さて何が怪鳥であるかということは明瞭でない。普通に見馴れない怪しい鳥を怪鳥ということにしているらしい。我国では、先ず鵺《ぬえ》や五位鷺《ごいさぎ》を怪鳥の部に編入し、支那では※[#「休+鳥」、第4水準2−94−14]※[#「緇のつくり+鳥」、341−3]《きゅうし》を怪鳥としている。※[#「休+鳥」、第4水準2−94−14]※[#「緇のつくり+鳥」、341−3]は鷹に似てよく人語をなし、好んで小児の脳を啖《くら》うなどと伝えられている。天狗も河童と同様で、支那ではあまりに説かれていない。『山海経《せんがいきょう》』に「陰山に獣ありそのかたち狸の如くして白首、名づけて天狗といふ」というのであるから、我国の天狗には当嵌《あては》まらない。我国のいわゆる天狗は鷲の類で、人をつかみ去るがために恐れられたのであろう。
 こんな風に種類分けをすると、支那とはよほど相違しているようであるが、それは単に形の上の相違にとどまってその怪談の内容は大抵支那から輸入されていることは前にいった通りである。



底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2007(平成19)年10月16日第1刷発行
   2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「不同調」
   1928(昭和3)年12月号
初出:「不同調」
   1928(昭和3)年12月号
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
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