場しているのを見ても知られる。前にいったようなわけで、男は回礼に出る、女はその回礼客に応接するので、内外多忙、とても元日早々から芝居見物にゆくような余裕はないので、大劇場はみな七草以後から開場するのが明治時代の習いであった。それが近年は元日開場の各劇場満員、新年の市中寂寥たるも無理はないのである。
 忙がしい世の人に多大の便利をあたえるのは、年賀郵便である。それと同時に、人生に一種の寂寥を感ぜしむるのも、年賀郵便であろう。



底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2007(平成19)年10月16日第1刷発行
   2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「思ひ出草」相模書房
   1937(昭和12)年10月初版発行
初出:「モダン日本」
   1935(昭和10)年1月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年10月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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