は何か悪いことでもしたのか」
 長三郎はその腕をつかんで軽く揺り動かすと、お冬は地に坐ったままで男の手さきをしっかりと握った。
 前髪立ちとはいいながら、長三郎も十五歳である。殊に今の人間とは違って、その時代の人はすべて早熟である。若い女に、自分の手を強く握られて、長三郎の頬はおのずと熱《ほて》るように感じられた。
 彼はその手を振り払いもせずに暫く躊躇していると、お冬はいよいよ摺り寄ってささやいた。
「若旦那……。あなたこそ何処へお出ででした」
 今度は長三郎の方が黙ってしまった。
「あなたは誰かを探して歩いているんじゃございませんか」
 星をさされて、長三郎はなんだか薄気味悪くもなった。
 この女はどうして自分の秘密の役目を知っているのであろう。もう一つには、今頃こんな取り乱したような姿をして、どうしてここらを徘徊しているのであろう。彼は謎のような女に手を握られたままで、やはり暫くは黙っていた。

     一〇

 お冬は長三郎の手を固く握ったままで、更にささやいた。
「あなたの探している人は見付かりましたか」
 なんと答えようかと長三郎はまた躊躇したが、結局思い切って正直に云っ
前へ 次へ
全165ページ中96ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング