死が奇怪な蝶に何かの関係を持っているらしくも思われるので、遺族の手前、その噂をするのを憚《はばか》りながらも、奇を好む人情から何かとその話が繰り返された。父からきびしく叱られているのと、また二つには若年者《じゃくねんもの》の遠慮があるので、長三郎は終始だまっていたが、諸人のうわさ話を一々聞き洩らすまいとするように、彼は絶えずその耳を働かせていた。
それから半月余りは何事もなくて過ぎた。二月に入っていよいよ暖かい日がつづいて、ほんとうの蝶もやがて飛び出しそうな陽気になった。その十二日の午《ひる》過ぎに、長三郎は父の使で牛込まで出て行ったが、先方で少しく暇取って、帰る頃には此の頃の春の日ももう暮れかかっていた。江戸川橋の袂まで来かかると、彼は草履の緒を踏み切った。
自分の家まではさして遠くもないのであるが、そのままで歩くのは不便であるので、長三郎は橋の欄干《らんかん》に身を寄せながら、懐紙《かいし》を小撚《こよ》りにして鼻緒をすげ換えていると、耳の端《はた》で人の声がきこえた。それが何だか聞き覚えのあるように思われたので、長三郎は俯向いている顔をあげると、二人の男が音羽の方向へむかって
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