した。理右衛門はともあれ、自分はここの家になんのゆかりも無いのであるから、案内も無しにつかつかと踏み込むわけには行かない。迂闊《うかつ》に案内を求めたらば、相手にさとられて取り逃がす虞《おそ》れが無いとも云えない。彼は桃の木の下に立って、どうしたものかと思案していると、内から五十前後の女が出て来て、若い侍を不安らしくじろじろと眺めていた。長三郎も黙っていると、やがて女は怪しむように声をかけた。
「あなたはどなたでございます」
なんと云っていいかと、長三郎はまた躊躇したが、思い切って訊き返した。
「今ここの家へ武家がはいったろうな」
「いいえ」
「このあいだから若い男と女が来ているだろうな」
「いいえ」
「誰も来ていないか」
「そんな方はどなたもお出でになりません」と、女は素気《そっけ》なく答えた。
「隠すな。私はその人たちに用があって、わざわざ音羽の方から尋ねて来たのだ」
この押し問答のうちに、入口にむかった肘掛け窓をほそ目にあけて、竹格子のあいだから表を覗いていたらしい一人の男が、大小をさして、草履を突っかけて、門口《かどぐち》にその姿をあらわした。それが黒沼の幸之助であることを認めた時に、長三郎は尋ねる仇にめぐり逢ったように感じた。
「長三郎、貴公は何しに来た」と、幸之助は眼を嶮《けわ》しくして云った。
「姉を探しに来ました」と、長三郎は悪びれずに答えた。
「姉はいない」
「きっと居ませんか」
「居ない。帰れ、帰れ」
「帰りません。姉を渡して下さい」
「姉はいないと云うのに……。強情《ごうじょう》な奴だな」
「ここにいなければ、どこにいるか教えてください」と、長三郎は一と足進み寄って訊いた。
「貴様……。眼の色をかえてどうしようと云うのだ」
そういう幸之助の眼の色もかわっていた。強《し》いて手向かいすれば斬ってしまえと、父からかねて云い付けられているので、長三郎は一寸も退《ひ》かなかった。彼は迫るように又訊いた。
「姉はここにいるか、さもなければ、あなたが何処へか隠してある筈です。教えて下さい」
「知らない、知らない」と、幸之助は罵るように云った。
双方の声がだんだんに高くなったので、内から又ひとりの侍が出て来た。それは理右衛門であった。
「喧嘩をしてはいけない。双方とも待て、待て」と、彼はうしろから声をかけた。
その声を聞くと、幸之助は俄かに向き直っ
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