見過ごせないのが私の性分で、怪我でもするといけないから留めてやれと幸次郎に云いますと、幸次郎は駈けて行って二人を引き分けました。いくら相手が子供でも、留男《とめおとこ》に出た以上は唯は済みません。女の児が先に拾ったのだから、魚は女の児にやらなけりゃいけない。その代りにお前にはこれをやると云って、幸次郎が三文か四文の銭《ぜに》を渡すと、男の児は大よろこびで承知しました。
しかし、この子供たちはふだんから仲が悪いのか、それとも魚を取られたのが口惜《くや》しいのか、男の児は相手の女の児を指さして、こいつの家《うち》へはお化けが出るんだよ。やあお化けだ、お化けだと呶鳴りながら、一目散に逃げて行きました。すると、こっちの女の児は手に掴んでいる魚を抛《ほう》り出して、わあっ[#「わあっ」に傍点]と泣き出しました。何が何だか判らないが、いつまでも子供を相手にしてもいられないので、三人はそのまま其処を立ち去って、随身門をはいって御社《おやしろ》に参詣、もとの宿屋へ帰って来ました。
唯これだけならば別にお話の種にもならないのですが、その晩は宿屋も閑《ひま》だったと見えて、女中ふたりが座敷へ来て酒の酌
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