どもの店の前を通りました。博奕にでも勝ったと見えまして、それから女郎屋へまいって景気よく飲んで騒いでいたとか申します」
「鵜でも売れたのだろう」と、半七は笑った。
「いえ、鵜はまだ売れません。家の前に売り物の札《ふだ》が付いて居ります」と、文右衛門はまじめに答えた。
「伊豆屋の若い者はどうしたね」
「きのうまで手前共に逗留《とうりゅう》でしたが、いつまでも手がかりが無いので、いったん江戸へ帰ると云って、今朝ほどお立ちになりました」
「それじゃ行き違いになったか」
釜屋の亭主を帰したあとで、半七は善八にささやいた。
「おめえは友蔵の家《うち》を知っているだろう。あいつは今夜、家にいるかどうだか、そっと覗いて来てくれ」
「ようがす」
善八はすぐに出て行った。
「友蔵の奴を挙げますかえ」と、幸次郎は訊いた。
「あいつ、どうも見逃がせねえ奴だ。不意に踏み込んで調べてやろう。先月の晦日ごろに江戸へ出たといい、景気よく銭を遣っているといい、なにか曰《いわ》くがあるに相違ねえ」
やがて善八は帰ってきた。
「友蔵は家《うち》で酒を喰らっていますよ」
「友達でも来ているのか」
「それがね。髪も形《
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