みだしな》みのいい女で、朝は暗いうちにお化粧を済ませて、自分の素顔を人に見せたことが無かったと云いますから、そのあばたを隠すためには本人もよほど苦心していたと見えます。
殺された晩にも、勿論お化粧をしていたのでしょうが、万力が顔の血でも洗った為に、初めて生地《きじ》があらわれたのでは無いかと察せられます。折角隠していたあばたの顔を、死んだ後に晒されては、お俊も残念であったかも知れません。お家騒動を起こすつもりであったかどうだか、万力の片口ばかりでは判りません。しかしその位のことは仕兼ねない女だという評判もありました」
最後に残ったのは、例の碁盤の一条である。それに就いて半七老人は斯う語った。
「碁盤は伊勢屋へ戻されましたが、いくら薄雲の由来付きでも、もうこうなってはどうにもなりません。伊勢屋ではそれを菩提寺へ送って、大勢の坊さんにお経を読ませて、寺の庭で焼き捨ててしまったそうです。その煙りの中から女の首をくわえた猫があらわれたなぞと、本当らしく吹聴する者もありましたが、これはヨタに決まっています。
銀之助は、その歳の暮に本家へ帰りました。そうしてぶらぶらしているうちに、慶応四年の
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