半七捕物帳
薄雲の碁盤
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)髪結床《かみゆいどこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)下谷の豊住|町《ちょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さもなければ[#「さもなければ」は底本では「さもなけれは」]
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一
ある日、例のごとく半七老人を赤坂の家にたずねると、老人はあたかも近所の碁会所から帰って来た所であった。
「あなたは碁がお好きですか」と、わたしは訊いた。
「いいえ、別に好きという程でもなく、いわゆる髪結床《かみゆいどこ》将棋のお仲間ですがね」と、半七老人は笑った。「御承知の通りの閑人《ひまじん》で、からだの始末に困っている。といって、毎日あても無しにぶらぶら出歩いてもいられないので、まあ、暇潰しに出かけると云うだけの事ですよ」
それから糸を引いて、碁や将棋のうわさが出ると、話のうちに老人はこんなことを云い出した。
「あなたは御存じですか。下谷坂本の養玉院という寺を……」
「養玉院……」と、わたしは考えた。「ああ、誰かの葬式で一度行ったことが
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