《おおあらし》、七月の二十五日にも風雨がありましたが、今度の風雨はいっそう強い方で、屋根をめくられたのも、塀を倒されたのもあり、近在には水の出た所もありました。
 その風雨も十三日の夕方から止んで、十四日はからりとした快晴、陽気もめっきりと涼しくなりました。日が暮れると例の如く、高源寺には大勢の参詣人が詰めかけて、お線香を供えるのもあり、お賽銭をあげるのもあり、いずれも念仏合掌して、今か今かと待ち受けていましたが、どういうわけか、今夜に限って地蔵さまは身動きもしない。待てど暮らせど、いっこうに踊り出さないのです」
「不思議ですね」
「不思議です。みんなも不思議だと云いながら、四ツ(午後十時)頃までは待っていたのですが、地蔵さまは冷たい顔をしてびくとも身動きもしないので、とうとう根負けがしてぞろぞろと引き揚げました。八月十四日で、今夜はいい月でした。明くる晩は月見ですから、参詣人も少ない。それから、十六、十七、十八、十九の四日間、地蔵さまはちっとも踊らないので、みんな的《あて》がはずれました。
 陽気も涼しくなって、コロリもおいおい下火《したび》になったので、地蔵さまも踊らなくなったのだ
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