や泣いて喜びました。有り合わせの薬を飲ませて介抱して、ともかくも奥へ連れ込みまして、表向きは死骸紛失ということにお届けを致させました」
「お歌はそれからどうしました」
「日が暮れてから気分も快《よ》くなったと申しますので、裏山づたいに帰してやりました。本人は素直に帰ろうと申しませんでしたが、わたくしからいろいろに説得しまして、今度は俊乗にも自由に逢わせてやると約束して、無理になだめてともかくも帰しましたが、所詮このままに済もうとは思われません。また出直して何かの面倒を云い込んで来ることと覚悟して居りました。そこへお前さん方が再びお乗り込みになりましたので万事の破滅と、わたくしもいよいよ覚悟を決めました。智心がお手向いを致しましたのは、お歌を殺した一件で、我が身にうしろ暗いところがある為でござりましょう。しかしお歌は確かに生きて居ります」
 ここまで話して来た時に、了哲が顔の色をかえて駈け込んだ。
「俊乗さんが死にました」
「どうして死んだ」と、半七は膝を浮かせながら訊いた。
「裏山の桜の木に首をくくって……」
 縊《くび》られたお歌は生きて、さらに俊乗が縊れたのであった。

     
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