て、二人は寺を出た。門を出るときに見かえると、花屋の前にはかのお住が立っていた。奥の暗い行燈の下で夕飯を食っている五十前後の男が、お住の父の定吉であるらしかった。
「親分。どうですね」と、小半丁もあるき出した時に亀吉は訊いた。
「あの住職め、いやに殊勝《しゅしょう》らしく構えているので、なんだか番狂わせのような気もしたが、あいつはやっぱり狸坊主だな」と、半七は笑った。「源右衛門という寺男は駈け落ちをしたと云うが、可哀そうに、もう此の世にはいねえだろう」
「坊主共が殺《や》ったのかね」
「手をおろした訳でもあるめえが、どうも生きちゃあいねえらしい。そこで、亀。おれはこれから真っ直ぐに帰るから、おめえは門前町をうろ付いて、あの寺の奴らについて何か聞き込みはねえかどうだか探ってくれ。それから、小坊主、智心とか云ったな。あいつの事を調べてくれ」
「小坊主……。初めから仕舞いまで黙って突っ立っていた奴でしょう」
「そうだ。どうもあいつの眼つきが気に入らねえ。黙ってぼんやり突っ立っているように見せかけて、あいつの眼はなかなか働いていた。あいつ、まだ十六、七らしいが、唯者じゃあねえ。そのつもりで、あ
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