細も無し、いずれも不思議がって居るのでござります」
「御門前の地蔵さまが踊ったと云うのは、ほんとうでございますか」
「踊ったと云うのかどうか知りませんが、地蔵尊の動いたのは本当で、わたくしも眼のあたりに拝みました」
「それを拝めばコロリよけのお呪《まじな》いになると云うことでしたね」
「いや、それは世間の人が勝手に云い触らしたことで、仏の御心《みこころ》はわかりません。果たしてコロリ除けのお呪いになるかどうか、わたくし共にも判りません」
この場合、住職としては斯う答えるのほかはあるまいと、半七も推量した。更に二、三の問答を終って二人は庫裏《くり》の方へまわって見ると、納所の了哲と小坊主の智心があき地へ出て、焚き物にするらしい枯れ枝をたばねていた。
「女の死骸はどこへ置いたのですか」と、半七は訊いた。
「日にさらしても置かれませんので、庫裏の土間に寝かして置きました」と、了哲は指さした。そこの土間には荒筵《あらむしろ》が敷かれてあった。
俊乗の云った通り、死骸の紛失は八ツ過ぎで、自分が便所へ立った留守の間であると、了哲は更に説明した。わずかの間に女が蘇生して逃げ去ったとは思われない。
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