まって評議をするやら、うろたえ騒いで時刻を移した末に、所詮《しょせん》どうにも仕様がないから、何かのお咎めを受ける覚悟で寺社方へ訴え出ることに決着した。若い僧はその難儀な使に出て行くところで、眼鼻立ちの清らかな顔を蒼白くしていた。彼は二十一歳で、名は俊乗であると云った。
三
俊乗に別れて、半七らは寺にはいった。高源寺住職の祥慶は六十余歳で、見るから気品の高そうな白髪《しらが》まじりの眉の長い老僧であった。祥慶は二人を書院に案内させて、丁寧に挨拶した。
「どなたもお役目御苦労に存じます。思いもよらぬ椿事|出来《しゅったい》、その上に寺中の者共の不調法、なんとも申し訳がござりません」
地蔵を踊らせて賽銭稼ぎをするような山師坊主と、多寡をくくっていた半七らは、すこしく予想がはずれた。年配といい、態度といい、なんだか有難そうな老僧の前に、二人は丁寧に頭を下げた。
「こちらのお寺はお幾人《いくたり》でございます」と、半七は訊いた。
「わたしのほかに俊乗、まだ若年《じゃくねん》でござりますが、これに役僧を勤めさせて居ります」と、祥慶は答えた。「ほかは納所の了哲と小坊主の智心、寺男
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