の源右衛門、あわせて五人でござります」
「寺男の源右衛門というのは幾つで、どこの生まれですか」
「源右衛門は二十五歳、秩父の大宮在の生まれでござります」
「これも若いのですね」
「源右衛門は門内の花屋定吉の甥で、叔父をたよって出府《しゅっぷ》いたした者でござりますが、そのころ丁度寺男に不自由して居りましたので、定吉の口入れで一昨年から勤めさせて居りました」
「その源右衛門は無事に勤めて居りますか」
「それが……」と、老僧はその長い眉をひそめた。「十日《とおか》以前から戻りませんので……」
「駈け落ちをしたのですか」
「御承知の通り、十二、十三の両日は強い風雨《あらし》で、十四日は境内の掃除がなかなか忙がしゅうござりました。花屋の定吉、納所の了哲も手伝いまして、朝から掃除にかかって居りましたが、その日の夕方、ちょっとそこまで行って来ると云って出ましたままで、再び姿を見せません。叔父の定吉も心配して、心あたりを探して居りますが、いまだに在所が知れないそうで……。本人所持の品々はみな残って居りまして、着がえ一枚持ち出した様子もないのを見ますと、駈け落ちとも思われず、また駈け落ちをするような仔細も無し、いずれも不思議がって居るのでござります」
「御門前の地蔵さまが踊ったと云うのは、ほんとうでございますか」
「踊ったと云うのかどうか知りませんが、地蔵尊の動いたのは本当で、わたくしも眼のあたりに拝みました」
「それを拝めばコロリよけのお呪《まじな》いになると云うことでしたね」
「いや、それは世間の人が勝手に云い触らしたことで、仏の御心《みこころ》はわかりません。果たしてコロリ除けのお呪いになるかどうか、わたくし共にも判りません」
 この場合、住職としては斯う答えるのほかはあるまいと、半七も推量した。更に二、三の問答を終って二人は庫裏《くり》の方へまわって見ると、納所の了哲と小坊主の智心があき地へ出て、焚き物にするらしい枯れ枝をたばねていた。
「女の死骸はどこへ置いたのですか」と、半七は訊いた。
「日にさらしても置かれませんので、庫裏の土間に寝かして置きました」と、了哲は指さした。そこの土間には荒筵《あらむしろ》が敷かれてあった。
 俊乗の云った通り、死骸の紛失は八ツ過ぎで、自分が便所へ立った留守の間であると、了哲は更に説明した。わずかの間に女が蘇生して逃げ去ったとは思われない。
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