は覚えがいいな」
今から七、八年以前のことである。神田川の河岸《かし》にある石屋のせがれ安太郎が、友達五、六人と清元の師匠の家に寄り集まったとき、その一人が云い出して、桜田門の見附《みつけ》の桝形のまん中に坐って、握り飯三つと酒一合を飲み食いした者には、五両の賞金を賭けると云うことになった。よろしい、おれがやって見せると引き受けたのが安太郎で、ひそかに準備をしているうちに、それが早くも両親の耳にはいって、飛んでもない野郎だと大目玉を食わされた。勿論その計画は中止されたばかりでなく、そんな奴は何を仕でかすかも知れないと云うので、安太郎はとうとう勘当された。
江戸末期の頽廃期には、こんな洒落をして喜ぶ者が往々ある。今度の一件もその二代目ではないかと、半七は想像したのであった。それを聞いて、亀吉も俄かに共鳴した。
「親分、夢じゃあねえ、確かにそれですよ。安のような職人とは違って、みんな大店の若旦那だから、さすがに自分が出て行くと云う者はねえ。取巻きの太鼓持か落語家のうちで、褒美の金に眼が眩《く》れて、その役を買って出た奴があるに相違ねえ。洒落にしろ、悪戯《いたずら》にしろ、飛んだ人騒がせ
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