わたくしもまあ、これで重荷をおろしたような気になりました。
 かたき討ちを首尾よく済ませた上で、鶴吉は直七附き添いで番屋へ訴え出ました。わたくし共が付いて行くと事面倒ですから、あくまでも鶴吉ひとりの仇討ということにして、わたくし共は茶屋にひと休みして引き揚げました。前にも申す通り、このかたき討ちには少し無理がありますから、あとの始末がどうなるかと案じていましたが、なにしろ伝蔵の罪科明白なので、上《かみ》にも相当の手心があったのでしょう。案外無事に済みました」
「その脇指はどうなりました」
「なんでも笹川の家から福田の屋敷の菩提所、光隆寺へ納めたとか聞きましたが、それからどうなったか知りません。考えてみると、かたき討ちの場所は高輪で、例の泉岳寺の近所、脇指は吉良の物、どこまでも縁を引いているのも不思議で、訳を知らない人が聞いたら、こしらえ話のように思うかも知れません」と、老人は笑っていた。
 わたしが暇乞いをして帰る頃には、細かい雪がちらちら降り出した。



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(五)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年10月20日初版1刷発行
※底本は、物を
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