りで笑っていた。おなじ二階ではあるが、裏と表と別々の座敷へ通されて、半七らが先ずくつろいで茶を飲んでいると、如才《じょさい》のない才兵衛はすぐに挨拶に来て、おめずらしくはありませんがお茶菓子にと、成田みやげの羊羹などを出した。
「そこで、お前さん方は……」と、才兵衛は声をひくめた。「なにか御用で……」
「まあ、用のような、遊びのような……」と、半七はあいまいに答えた。「ここらは大そう釣れると云うから……」
「じゃあ、やっぱり釣りですか。わたくしも一度、近所の人に誘われて、ここへ釣りに来たことがありました。しかし何処へ行っても、下手は下手で……」
釣りの失敗話などをして、才兵衛は自分の座敷へ帰った。そのうしろ姿を見送って、善八はささやいた。
「あいつ、成田から帰る途中、ひとりでここへ廻って来たのは、なにか堀り出し物のあてがあるんですぜ」
「まあ、そうだろう。あいつも商売にゃあ抜け目がねえからな」
女中に訊くと、才兵衛はすぐに又どこかへ出て行ったとの事であったが、善八はすこし風邪を引いていると云い、海辺の風は殊に寒いというので、半七らはどこへも出ずに一泊した。
あくる日は風も凪《な》
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