内は用人のほかに家来二人、中間三人、下女二人であったが、屋敷の滅亡と共に、皆それぞれに離散した。
正式の届け出があった以上、町奉行所でも罪人伝蔵のゆくえ探索に着手したのは勿論であるが、それは半七の係り合いで無かったので、今まで別に手を着けようともしなかった。しかし彼も大体の話は聞いていた。それを今あらためて直七と鶴吉の口から詳しく説明されたのである。
「まあ、親分。そういうわけでございます」と、直七は鶴吉をみかえりながら云った。「それをこの鶴さんと阿母《おっか》さんがたいへんに残念がっているのです。殊におっかさんはしっかり者ですから、どうしても此のままには済まされないと云っています。娘のかたきばかりじゃあない、御主人のかたきだ。福田の殿さまには長年お世話になっている。今度お屋敷が潰れたについて、御用人も御家来衆もみんな勝手に何処へか立ち去ってしまって、主人のかたきを探そうとする者もないのは、あんまり口惜《くや》しい。百姓でも町人でも、かたき討ちは天下御免だ。お前がその伝蔵をさがし出して、殿さまと姉さんのかたき討ちを立派にしろと、鶴さんに云い聞かせたのです」
勝気の母に激励されて、魚
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