んだ災難の基で、江戸へ死にに来たようなものでした。
しかし金右衛門は浅手のために早く癒りました。これは茂兵衛のかたきですから、うかうかしていたら二度のかたき討ちをされて、おそらく無事には済まなかったでしょうが、茂兵衛や銀八が早く召し捕られたので命拾いをしました。為吉の傷は重いので一時はどうだかと危ぶまれましたが、これもふた月あまりで全快、国許から迎えの者が来て、金右衛門と為吉兄妹を引き取って帰りました」
「それから、道行の方はどうなりました」
わたしが笑いながら訊くと、老人も笑った。
「この方はなんと云っても芝居がかりの粋事《いきごと》です。男も女も借金と云ったところで知れたものですから、わたくしが口を利いて、甲州屋の方は親許身請けと云うことにして、お若のからだを抜いてやりましたよ」
「めでたく徳次郎と夫婦になったのですね。そこで、その親許身請けの金は……」
「乗りかかった船で仕方がありません。半七の腹切りです。しかし、わたくしの顔を立てて、甲州屋でも思い切って負けてくれましたから、さしたる痛みでもありませんでした。そりゃあ貴方《あなた》、わたくしだって、人を縛るばかりが能じゃあな
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