れれば、すぐに露顕するのは判っています。そこで、辻番をうまくごまかして、横手の大竹藪へもぐり込んで、首尾よく逃げおおせたのです。殺された郡兵衛は悪銭身に着かずで、持ち逃げの金はみんな道楽に使ってしまい、今では本郷辺の旗本屋敷の若党に住み込んでいて、その日は千駄ヶ谷辺の知りびとのところへ尋ねて行く途中、子供のみやげに柿を買っている処を、おのれ盗賊とばっさりやられたのですが、全く盗賊に相違ないのですから仕方がありません。一年三両二分の給金を取る若党が、ふところに二両足らずの金を持っていたのは少し不審で、こいつも相変らず悪い事をしていたのじゃないかと思われますが、死人に口無しで判りませんでした」
 これで六道の辻の一件は説明されたが、佐倉の一行に関する秘密は不明である。しかも半七老人の話を聴いているうちに、誰でも疑いを懐《いだ》くのは下総屋という米屋の主人であろう。彼がこの事件に重大の関係を有するのは、どんな素人にも容易に想像されることである。私がそれを云い出すと、老人はうなずいた。
「そうです、そうです。金右衛門を斬って、娘のおさんをかどわかしたのは、下総屋の茂兵衛の仕業です。この茂兵衛と 
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