分の仕業だと白状しました。島田のことはともかくも、異人殺しの方は確かな証拠がないのですから、飽くまでも知らないと強情を張り通せないことも無いのですが、お角が挙げられると、あとから続いて国蔵も甚八も挙げられる。こいつらがべらべら喋《しゃべ》ってしまいましたから、島田の死骸を捨てさせた事はもう隠しおおせません。こうなれば、一寸斬られるも二寸斬られるも同じことで、しょせん人殺しの罪科は逃がれないのですから、当人も覚悟を決めたのでしょう。もう一つには、わたくしの工夫で、一つの責め道具を見せてやりました」
「どんな責め道具です」
「島田の弟子の吾八に云いつけて、川から引き揚げた犬の死骸を写真に撮らせて、お角の眼の前に突き付けさせました。この洋犬《カメ》をむごたらしく殺したのはお前の仕業だろう。お前がなぜこの洋犬を殺したか、上《かみ》ではもう調べ済みになっているぞと云いますと、お角はその写真をひと目見て、いよいよ赤面して恐れ入ったそうです。そんな責め道具をどうして思い付いたかと云いますと、わたくしが神奈川の料理茶屋を出て写真屋へ帰る途中、往来のまん中で二匹の犬がふざけているのを見たのが始まりで、それからふっと考え付いたのです」
「どんなことを考え付いたのです」
「さあ、それは少しお話ししにくい事で……」と、老人は顔をしかめながら微笑《ほほえ》んだ。「お角の白状をお聴きになれば自然にわかりますよ。その白状によると、先ずこうです。ヘンリーはわたくしに隠していましたが、ハリソンとお角との関係について、女房のアグネスは嫉妬をおこして、家内はかなりに揉めていたらしいのです。そこで、六月|晦日《みそか》の朝……朝と云っても、やがて午《ひる》に近い頃だそうですが、お角は島田と一緒に異人館へ出かけて行くと、きょうは晦日の勘定日でハリソンは店の方へ出ていました。その留守に、アグネスと島田とお角と三人で暫く話していると、そのうちに島田がお角にむかって、細君もおまえの彫物《ほりもの》を写真に撮りたい。今度は、まる裸になるに及ばない、ただ両肌を脱いで蟹のほりものを見せればいいのだと云うのです。それで、十五ドル呉れるというのでお角も承知しました。
それから奥のひと間へはいって、暑い時分ですから帯を解いて、お角は帷子《かたびら》の両肌をぬいで、椅子に腰をかけて待っていると、やがて一匹の大きな洋犬《カメ》
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