した。岩蔵はごろつきのような奴ですから、金にさえなれば何でも引き受けるというわけで、弟の照之助にすすめて虎を勤めさせ、自分も一緒に出て唐人の役を勤めることになりました。芝居の方じゃあ岩蔵に用はないが、照之助を借りる都合上、兄きも一緒に買ったのです」
「浅川の芝居では黙って承知したんですか」
「承知しません」と、老人は頭《かぶり》をふった。「おまけに、その国姓爺の評判がよくって、自分の芝居が圧《お》され勝になったから、猶さら承知しません。第一、男と女と入りまじりの芝居をするのは不都合だというので、浅川の方から鳳閣寺の芝居小屋へ掛け合いを持ち込んだが、四の五の云って埓が明かない。それを聞き込んだのが原宿の弥兵衛で、それなら俺の方から掛け合ってやる……。こういうときに口を利けば、両方から金がはいると思ったから、弥兵衛はそれを買い込んで、子分のひとりを女芝居へやって、少し話したいことがあるから、誰か来てくれと云わせました。
 弥兵衛がはいると、どうも事面倒になると思って、芝居の方でもいろいろ相談の末に、岩蔵をたのんで原宿へやりました。岩蔵は博奕も打つ奴で、弥兵衛の家《うち》へも出這入りをしてい
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