の家《うち》へばかり因縁を付けに来たって仕様がない。おまえさんも国姓爺を勤める役者だ。唐《から》天竺《てんじく》まで渡って探して歩いたらいいでしょう」と、お金はせせら笑っていた。
 喧嘩の火の手はいよいよ強くなるばかりである。小三は舞台の和藤内をそのままに、大きい眼を剥《む》いて又呶鳴った。
「シラを切っても、いけないいけない。あたしはちゃんと証拠を握っているのだ。ここの師匠は化けもんだ、女のくせに女をだまして、金も着物もみんな捲きあげて、仕舞いには本人の体《からだ》まで隠して……。並大抵のことじゃあ埓があかないから、きょうは芝居を休んで掛け合いに来たのだ。もうこうなりゃあ出るところへ出て、拐引《かどわかし》の訴えをするから、そう思うがいい」
「どうとも勝手にするがいいのさ。白い黒いはお上《かみ》で決めて下さるだろう」
「知れたことさ。そのときに泣きっ面をしないがいい。さあ、もう行こうよ」
 小三は弟子たちをみかえって表へ出ると、半七はふた足三足追いかけて呼び留めた。
「おい、師匠。待ってくんねえ」

     六

「長くなるから、ここらでお仕舞いにしましょうかね」と、半七老人は云っ
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