屋へ帰ったんですが、いろいろの詮議を受けると面倒だというので、親方の指図で姿を隠してしまったんです」
「そうして、どこに隠れていたんです」
「友達の寅吉の家へ逃げ込んで、戸棚のなかに隠れていたそうです。寅吉も悪い奴で、万事を承知で千太をかくまい、千太の使だと云って時々に三河屋へ無心に出かけていたんですが、この寅吉を斬った者がよく判りません。寅吉の出入りを尾《つ》けていた幸次郎の話によると、寅吉が山本町の橋の袂へ来かかった時に覆面の侍が足早に追って来て、一刀に斬り倒したのだそうで、恐らく菅野の屋敷の者だろうと云うんです。菅野は前にも申した通り、浅井の奥さまの里方で深川の浄心寺わきに屋敷を持っている。そこへ今度の一件を種にして、寅吉は何か強請《ゆすり》がましい事でも云いに行ったらしい。屋敷の方でも面倒だと思って、一旦は幾らか握らせて帰して、あとから尾《つ》けて行ってばっさり[#「ばっさり」に傍点]……。わたくしは門前払いを喰っただけでしたが、寅吉は命を取られてしまいました。なにしろ寅吉が殺《や》られてしまったので、千太はどうすることも出来ない。よんどころなく其処を逃げ出して、それからそれへ
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