幸次郎の報告を待ちわびていると、午頃になって彼は駈けつけた。
「どうも遅くなって済みません。近所の屋敷の奴を二、三人たずねたのですが、あいにくどいつも留守で手間取りました。だが、すっかり判りました。浅井の妾の親許は小梅の植木屋の長五郎、家《うち》は業平《なりひら》橋の少し先だそうです」
「よし、判った。それじゃあ俺はすぐに小梅へ行って来る。ゆうべも云う通り、おめえは誰かの加勢を頼んで、お信と千太のゆくえを探してくれ。ひょっとすると、築地の三河屋へ忍んで来ねえとも限らねえから、あすこへも眼を放すな」
 云い聞かせて、半七は早々に家を出た。吾妻橋を渡って中の郷へさしかかると、その当時のここらは田舎である。町屋《まちや》というのは名ばかりで百姓家が多い。時にしもた[#「しもた」に傍点]家があるかと思えば、それは「梅暦」の丹次郎の佗び住居のような家ばかりである。ふだんから往来の少ない土地であるから、雨あがりのぬかるみは深い。半七も覚悟して日和下駄を穿《は》いて来たが、その下駄も泥に埋められて自由に歩かれないくらいである。
 それをどうにか通り越して、南蔵院という寺の前から、森川|伊豆守《いずの
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