ゃ仕様がねえ。品川まで連れて行け」と、半七は先に立って歩き出した。
男と女は子分ふたりに追い立てられて行った。お此の顔には汗が流れていた。伊之助の顔には涙が流れていた。
「芝居ならば、ここでチョンと柝《き》がはいる幕切れです」と、半七老人は云った。「お此という奴はわる強情で、ずいぶん手古摺らせましたが、伊之助が意気地がないので、その方からだんだんに口が明いて、古狐もとうとう尻尾《しっぽ》を出しましたよ」
「古狐……。その狐の騒ぎはみんなお此の仕業《しわざ》なんですか」と、私は訊いた。
「そこが判じ物で……。まずお此という女についてお話をしましょう。こいつの家《うち》は芝の片門前で、若い時から明神の矢場の矢取り女をしたり、旦那取りをしたりしていたんですが、元来が身持ちのよくない奴で、板の間稼ぎやちょっくら[#「ちょっくら」に傍点]持ちや万引きや、いろいろの悪いことをして、女のくせに入墨者、甲州から相州を股にかけて、流れ渡った揚げ句に、再び江戸へ舞い戻って、前にも申す通り、小間物の荷をさげて歩いたり、近所の茶屋の手伝いをしたりして、まあ無事に暮らしていたんですが、それでおとなしくしてい
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