業に就くことを誓って釈放された。去年の冬から百日あまりの入牢《じゅろう》が一種の懲戒処分であった。
その三十六人のうちに竹本染之助というのがあって、年は若いが容貌《きりょう》はあまり好くなかった。彼女は半七に召し捕られたのであるが、最初から可哀そうだという吉五郎の言葉もあるので、半七は彼女が入牢するまで親切にいたわってやった。それを恩に着て、染之助は出牢早々に吉五郎のところへ挨拶に来た。半七にも逢って先日の礼を云った。
「どうだ、御牢内は……。面白かったかえ」と、吉五郎は笑いながら訊《き》いた。
「御冗談を……」と、染之助は真顔になって答えた。「わたくしは初めてですから、まったく驚いてしまいました」
「誰だって初めてだろう」と、吉五郎はまた笑った。「だが、男牢と違って女牢だ。そんなに驚くほどの事もなかったろうが……」
「いいえ、それが大変で……。わたくし共はみんな一つところに入れられて居りましたが、牢名主《ろうなぬし》は大阪屋花鳥という人で……」
「大阪屋……。島破りの花鳥か」
「そうでございます」
大阪屋花鳥は初めに云った通り、八丈島を破って江戸へ帰って来て、日本橋の松島町辺に暫
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