絞めようとした……。その時お前さんはわたしを助けようともしないで、平気で眺めていたじゃあないか」
「いや、助ける間《ひま》がなかったのだ」
「いいえ、嘘だ、嘘だ」
「嘘じゃあない」
「さんざん人を欺《だま》して置いて、邪魔になったら殺そうとする……。おまえは鬼のような人だ」
「そうぞうしい。静かにしろ」と、徳次は二人を叱り付けた。「いつまでも噛み合っているにゃあ及ばねえ。おれの方にも眼があるから、白い黒いはちゃんと睨んでいるのだ」
六
大番屋《おおばんや》へ送られて三人は更に役人の吟味を受けた後に、新次郎は重罪であるからすぐに伝馬町《てんまちょう》の牢屋へ送られた。お直は宿許《やどもと》へあずけられ、宇吉は主人方へ預けられた。これで一方の埒は明いたが、磯野小左衛門のゆくえは判らなかった。お節の生死《しょうし》も知れなかった。
徳次と半七は親分吉五郎の指図にしたがって、その後も油断なく探索に苦労していたが、どうしても小左衛門親子の影を追い捕えることが出来なかった。
今も昔も同じことで、探索の役目の者も一つの仕事にばかり取り付いているわけには行かない。新らしい事件があと
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