え。そこは推量さ」
「向うへ行って、もし間違っていたら引っ込みが付くめえ」
「そりゃあ段取りがありまさあね」と、彼は半七の無経験をあざけるように答えた。「いきなり証拠物を出しゃあしねえ。まず番頭に逢って、こちらのお嫁さんの死骸は見付かったかと訊くと、まだ見付からねえという。家を飛び出した時にはどんな物を着ていたかと訊《き》くと、四入り青梅の単衣《ひとえ》でこうこういう縞柄だという。それがぴったり符合《ふごう》していりゃあ、もう占めたものだ。そこで初めて怪談がかりになって、証拠の片袖を御覧に入れるんだから十《とお》に一つも仕損じはありゃあしねえ。ねえ、そうじゃあありませんか」
後学のために覚えて置けと云わないばかりに、彼はそらうそぶいていた。こうなると普通の騙《かたり》りや強請《ゆすり》ではない。ともかくも其の片袖は本物である。十両の礼金は鍋久が勝手にくれたのである。それらの事情をうまく云いまわせば、彼は単に叱り置くぐらいのことで、ほんとうの科人《とがにん》にはならないかも知れない。彼が多寡をくくって平気な顔をしているのも、それが為であろうと半七は思った。
しかもお節はほんとうに死ん
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