当の覚悟がある筈で、右から左にその大金を湯水のように使い捨てるような、浅はかな愚かなことはしないであろう。恐らく何処にか埋め隠して置いて、詮議のゆるんだ頃にそっと持ち出すという方法を取るであろうとは、何人《なんびと》も想像するところであった。
さてその金をかくす方法は、まず自宅の床下に埋めて置くのが普通である。次は他人《ひと》の眼に付かないような場所を選んで、なにかの眼じるしを立てて埋めて置くのである。これは誰でも考えることで、今度の犯人もその一つを択《えら》んだであろうと察せられるが、そのほかの方法はその小判を鋳潰《いつぶ》して地金《じがね》に変えてしまうことである。通貨をみだりに地金に変えることは、国宝鋳潰しの重罪に相当するのであるが、すでに金蔵を破るほどの重罪犯人であれば、そのくらいの事は憚《はばか》る筈もない。たといその小判の全部でなくとも、その一部を鋳潰して、何かの形に変えて置くようなことが無いとも限らない。純金の伸べ棒を芯《しん》に入れて、それを大きい蝋燭に作って置くなども、確かに一つの方法であると半七は思った。
金蔵やぶりの盗賊が一人の仕業でないのは、容易に想像される
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