この川で揚がった女の死骸は、金の蝋燭をかかえていたという評判で、その年ごろも丁度おなじようですから、きっと旦那のおかみさんに相違ないと、おっ母さんは大変に心配しているんです。あたしも気になって堪まりませんから、その様子を聞きながらここへ来て、占い者に見て貰いますと、おまえさんには死霊が祟っていると云われたので、いよいよぞっ[#「ぞっ」に傍点]としてしまいました」
「宗兵衛は江戸者かえ」
「いいえ、なんでも東海道の方に長くいたそうで、大井川の話なんぞをした事があります。江戸へは一昨年《おととし》の春頃から出て来たということです」
お光は更に半七の問いに対して、宗兵衛はことし四十歳、女房のお竹は三十三歳、夫婦のあいだに子供は無く、田町の家はお由という山出しの女中と三人暮らしである。他国者《よそもの》だけに、江戸には身寄りも無いらしく、かつて親類の噂などを聞いたことも無いと云った。
「そこで、その蝋燭の一件だが……」と、半七はまた訊いた。「それに就いて何か聞いたことがあるかえ」
「二日の晩に初めて聞いたので……。それまでに誰もそんな話をしたことはありませんでした」
「そうか。じゃあ、きょう
前へ
次へ
全46ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング